はじめに
今回の記事では、スキー・スノーボードのウェアや用具選びにおいて重要な、防水性、透湿性、撥水性といった性能について解説したいと思います。
具体的にどうウェアやグローブを選ぶかについては、下記の関連記事をご参考ください。
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防水性
防水性とは、繊維に水が吸収・浸透していくことを防止する性能のことを言います。
ここで重要なことは、水と言っても液体の水、つまり水滴のことを指します。
つまり、防水性を持つ繊維とは下記のようになります。
このように、極細繊維を密に織り込むことで隙間を小さくして、水滴が浸透していくことが出来ない構造になっている繊維が防水性の高い繊維です。
もっとも、水滴というのも、かなりあいまいな概念で、大きい水滴や小さい水滴もあり、そもそも、水滴というのは電子顕微鏡レベルの水分子が無数に集まったものですから(単純計算で1立方ミリメートルの水滴の中に、0が19個付くレベルの数の水分子がいる)、いくら隙間が小さいとはいえ、上から圧力をかければ、水滴の一部が浸み込んでいくのではないかと考えるのは当然で、実際にその通りになります。
したがって、防水性の性能は、どのくらい圧力まで、水が浸透せずに耐えられるかで評価され、具体的には、以下の指標が使われます。
1mm四方の水柱を繊維表面に載せた場合にどの程度の高さ(=圧力)まで水が浸透しないで耐えられるかという指標が用いられます。
その結果、防水性能は耐水圧10,000mmとか、20,000mmなどと、水柱の高さで評価されます。
耐水圧の具体的な目安としては以下の数字が良く引用されます。
20,000mm — 嵐
10,000mm — 大雨
2,000mm — 通常の雨
300mm — 小雨
そして、体重75kgの人が濡れた場所に座った時の圧力が約2,000mm、濡れた場所へ膝まずいている時の圧力が約11,000mmとなるそうです(ブリヂストンのHPから引用させていただきました。)
透湿性
透湿性とは、水蒸気が繊維を透過する性能ことを言います。水蒸気つまり水分子の透過性能のことで、水滴(水分子の凝集したもの)の透過性能ではありません。
通常繊維に隙間があり、その隙間は水滴は通れないほどの小ささだとしても、水分子が通れないほど小さくはありませんから、水蒸気は通れます。
したがって、汗でウェア内部の湿度が高まれば、当然、繊維内部の隙間を通って水蒸気は外に出ていこうとします(ウェア外部の湿度が低い前提ですが)。
透湿性については、その繊維を水蒸気がどのくらい通過できるかという指標が用いられます。
具体的には、繊維1平方メートル当たり、24時間で、何グラムの水が通過できるかという指標が用いられ、5000g/m^2・24hとか、10,000g/m^2・24hなどと表記されます。
もっとも、その測定方法が複数あるのが厄介で、そのせいで、異なるメーカー間では厳密な比較ができないという指標です。
典型的な測定方法は下記のとおりです。
コップ上の容器に吸湿剤を入れ、試験対象の繊維で蓋をして密閉し、高温多湿空間に24時間おき、吸湿剤の重量増加を測定します。
水蒸気は、試験対象繊維しか通過できないので、吸湿剤の重量増加分に相当する水だけ、繊維を通過したと考えられます。
防水性と透湿性
防水性と透湿性には一般論としては関係があります。
つまり、繊維の隙間が小さければ小さいほど防水性は高いですが、繊維の隙間が小さければ小さいほど水蒸気の通過度合いは悪くなります。
つまり、防水性にとっては隙間が小さいほど良いのですが、透湿性にとっては隙間が大きいほど良いことになります。
したがって、防水性と透湿性は基本的に反比例します。
もっとも、アウトドアウェアとしては、高い防水性と高い透湿性を両立したいので、各社工夫を凝らすことになります。
通気性と防風性と透湿性
透湿性というのは、繊維の隙間を水分子が通過できるということですから、当然空気、つまり、酸素分子や窒素分子も通過できることになります。
では、透湿性があるということは、防風性はないということなのでしょうか。
実際のアウトドアウェアを見てもらえば分かるように、それは違います。
高い防風性と高い透湿性は両立できます。
実際には、繊維はこんがらがって隙間は網目状になていますから、いくら小さい分子とは言え素早くその内部を移動することは出来ません。
透湿性における、水分子の移動とは、熱が高いところから低いところに移動するように、恋食塩水と薄い食塩水を混ぜると食塩が均等に分散して中くらいの濃度の食塩水がで着るように、湿度の高い体側から湿度の低い外部へ水蒸気が徐々に移動していくことを意味します。
また、素早く移動できるくらいの隙間が空いている場合、防風性はない反面、通気性が高いと表現されます。
通気性が高い場合、気体状の分子はほぼ自由に移動できるため、水蒸気に移動量も多く、当然透湿性も高くなります。
代表的な素材はフリースで、そこそこの保温性はありますが、通気性が高い(防風性が低い)ため、風が強いと冷たい空気がウェア内部に侵入しやすく、寒い環境の中でのアウターとしては優れていません。
しかし、防風性の高いジャケットの内部で着用する分には、そこそこの保温性を維持しながらも高い通気性(高い透湿性)を実現するために(+動きやすい)、中間着としては優れた素材とされます。
撥水性と防水性と透湿性
防水性とややこしいものに撥水性があります。
撥水性とは、繊維表面が水を弾いて繊維内部への浸透に抵抗する性能をいいます。
撥水性は、水滴における水分子の凝縮力が、水分子と繊維材料との付着力より高い場合に生じる性能です。この意味を以下で詳述します。
撥水性は、防水性にも透湿性にも絡んでくる重要な性質です。
絵のように、繊維の隙間が小さければ水滴は侵入できません。
しかし、繊維と水との相性がよく、水滴やその一部が繊維表面に付着してしまうとよくないことが起こります。繊維表面が水滴で覆われている状態では、体側からの水蒸気の出口がなくなってしまうのです。
つまり、防水性が高くて水滴を通さないとはいえ、そこに水滴があったままでは、水蒸気の出口が無いことになり、透湿性が落ちてしまいます。
そこで、繊維に疎水性の加工をします。疎水性の加工とは、科学的に水と相性の悪い物質(「水と油」の油的なもの)でコーティングすることで、水が近寄れないようにすることです。
水滴が弾かれて、ウェアを振ったり、風が吹いたりすると、水滴が水滴のままどこかに飛ばされてしまいます。
このように、繊維表面の撥水性は、透湿性に直結する性能となります。
さらに、撥水性は防水性ともかかわります。
圧力をかけると、水滴もいずれに繊維内部に浸透していくと防水性のところで説明しました。
水滴というのは、水分子が凝縮したものです。しかし、繊維が疎水性の加工がされている場合、圧力により水滴の一部が繊維の隙間に浸透していくということは、水分子の一部が仲間の水を離れ、油のような水と相性の悪い物質に近づいていくことを意味します。
しかし、仲間を離れてあえて相性の悪い物質の近くに予定くというのは通常起こりにくいことです。
つまり、撥水性は防水性を高めると言っても過言ではありません。
このように、撥水性は防水性とは異なる概念ですが、防水性と透湿性の両方に密接にかかわる性能です。
ゴアテックス
ここで、ゴアテックスという、防水性と透湿性を両立した素材の中身を見ていきます。
各繊維素材メーカーがいろいろな新素材を開発しており、ゴアテックスに迫るところまでは来ているものの、現状また追いつけていないというのが実情ではないでしょうか。
ゴアテックスというのは、究極的には、ゴアテックス・メンブレン(メンブレンは膜の意味)という、ビニールシートのようなものを指します。
上述したような、細かい孔がたくさん開いた素材で、水滴は通さないけど水蒸気は通すわけです。
もっとも、それだけだとただの薄いシートで、ウェアにはできませんから、表地と裏地を付けて3層構造にして、1枚地のゴアテックス・ファブリックス(ファブリックスとは生地の意味)として使用されています(表地だけで裏地なしの2層構造のものもある)。
なぜ表と裏を付けて3枚地にするのかと言えば、第一の理由は耐久性を高めて、コアとなるゴアテックス・メンブレンを保護するためですが、それ以外の意味もあります。
まず、表面の素材は撥水性の素材となります。
これは、撥水性のところでも説明したように、ゴアテックス・メンブレンが高い防水性と高い透湿性を有しているとはいえ、表面に水滴が居座っていては、水蒸気の出口がふさがれ、高い透湿性が台無しになりますし、また、水が少しずつ浸透していくことで、防水性も徐々に破られてしまいます。
そこで、撥水性素材を表側に付けることで、ゴアテックス・メンブレンの表面に水滴が付着しないようにして、本来の高い防水性と高い透湿性を保護しているのです。
裏側は、単純にゴアテックス・メンブレンの保護と肌触りといった観点からつけているものと言えます。したがって、軽量性や収納性が重視される場合も考慮して、裏地なしの2層構造のゴアテックス・ファブリックスもラインナップとしては存在するわけです。
吸汗速乾性
ここまで説明したので、吸汗速乾性についても説明します。吸汗性の話が登場すると、話はややこしくなります。
吸汗性とは文字通り汗を吸う能力を意味します。
ここで、吸湿性という似たような言葉があり、これは水蒸気としての汗を吸う能力を意味します。
吸湿性とは、水蒸気としての汗、つまり日常生活レベルの活動で体から排出される汗を吸収する能力を意味し、その一方で吸汗性とは、スポーツやアウトドア時の玉のような汗、つまり液体としての水を吸収する能力となります。
ここで、吸汗性の高い素材とは、防水性素材ほどの小ささではありませんが、それなりに小さい隙間が空いていて、毛細管現象で体表面の汗が吸い上げられていく素材を意味します。
毛細管現象で吸い上げられた、末端では体温の熱によって少しずつ気化され放出されます。
ここで、なぜ、この吸汗性の話をしたかというと、ゴアテックスの表地に撥水素材が使われているのと同様に、ゴアテックスの内側のインナーで吸汗速乾性の高いウェアを着ないとゴアテックスの透湿性が台無しになるからです。
ゴアテックスの表面に水蒸気が付着していると水蒸気の出口がなくなって透湿性が台無しになるのと同じで、例えばびっしょりに濡れたコットンシャツのインナーの上にゴアテックスのジャケットを着用しても、水蒸気の入り口が液体の水で覆われるような事態となりますから、透湿性は台無しになります。
したがって、ゴアテックスの機能を生かすには、液体の汗をすって、少しずつ水蒸気として放出する吸汗速乾性の高いインナーを着用していることが肝となります。
必要な防水性
スキーやスノーボードのウェアに必要な防水性については、下記が目安です。
・5,000mm以上
雪山で活動する以上最低限必要な防水性。
・10,000mm以上
晴天時やあまり転倒しない中上級者は5,000mmあれば問題ないとも言えます。
しかし、悪天候時や春スキー、洗濯や摩擦による摩耗、濡れたリフトに座ること、尻もち(特にスノーボーダー)のことを考えると、10,000mm以上無いとお尻などの特定部位が濡れてくることは覚悟した方が良いでしょう。
・20,000mm以上
ゴアテックス素材すれば、20,000mmは余裕でクリアできますし、高ければ高いほど良いという考えもできますが、それはバックカントリーとか、命のかかった雪山登山とかの話で、ゲレンデレベルのレジャースキーヤーであれば20,000mmあれば問題になることはないでしょう。
なお、3層構造のゴアテックスファブリックスの場合、防水性は45,000mmです。
必要な透湿性
・5,000g/m^2・24h以上
ゲレンデでのレジャーレベルのスキーやスノーボードの場合、休憩時にロッジや食堂でジャケットを脱げる、暑い時はベンチレーションを使える(ファスナー降ろしたり)、極寒時にはそこまで汗かかない、ことを考えると5,000gで問題ないと言って良いと思います。
ウェア内部が汗まみれになりながらも、ウェアを開けるわけにはいかないために透湿性が高ければ高いほど良い、極寒時の登山のような状況とは大きく異なるので、そこまで高い透湿性は必要ないと思います。
また、透湿性の数値を開示しているスキー・スノーボードウェアはあまりなく、必要最低限がどれくらいかは生じきよく分かりません。
・8,000g/m^2・24h以上
上述のような観点から、8000gあれば盤石と言って良いのではないでしょうか。
なおゴアテックスの場合、透湿性は13,500gとなります。
終わりに
今回の記事では、防水性や透湿性といった、スキー・スノーボード用のウェアに求められる各性能について解説しました。
自分なりに考えて正確に書いてるつもりではありますが、もし間違い等がありましたら教えていただけると幸いです。
なお、最後の具体的な防水性・透湿性の目安については、様々なサイトを参考に決めましたが、印象としてはアウトドア専門家の方々の意見は概ね同様で、多様な意見の平均値をとったという感じはしていません。
素人解説ですが参考になれば幸いです。